モンゴル人の友人、バヤラーが来日した。京都で会って、お昼時になり、何か食べたいものはある?と聞いた。すると意外な返事が返ってきた。
「しらす丼以外だったら何でも〜」
日本語堪能な彼女は、日モ共同プロジェクトのコーディネーターなど日本に関わる仕事をしており、来日も5回目である。内陸国ゆえに魚を食べつけない人が多いモンゴルで彼女は、魚はもちろん大抵の日本料理はOKだ。
にも関わらず、しらす丼はだめだと言う。なぜ?
「あのね〜、目がたくさんで、見られてるようでちょっと怖いの」
「それにほら、うち遊牧民でしょう。まゆこさんはわかると思うけど、羊や牛を一頭解体したら、みんなでそれを食べ続けるじゃない?だから、しらす丼みたいに一人でたくさん、一度に食べるのは申し訳ない気がするの」
ああ、そうか。そうだね。
彼女の実家は、砂漠で知られるゴビ地方の遊牧民だ。
バヤラーが小さかった頃、モンゴルは社会主義だった。彼女のおばあさん達は、国に課せられた肉や羊毛のノルマを達成するために非常に苦労したそうだ。それでも彼らは遊牧を続けた。
資本主義になって、バヤラーの両親も遊牧に戻った。公務員と獣医だったが、安定の地位を捨て、自然に戻ることを選んだ。
遊牧民が次々と辞めて都会に出ていく中、バヤラーの弟さんは遊牧を選んだ。ゴビに伝わる知識や知恵を引き継いでいる彼に、バヤラーはとても感謝している。
首都ウランバートルに住んで長く、外国のこともよく知っているけど、バヤラーの芯は遊牧民なのだ。家族と家畜と自然を大事に生きる、誇り高きモンゴルの遊牧民。
岡本