「もちろん!ちょっとまゆこさんテープで巻いてたんですかぁ?はい直しましょう!ここに来たなんて直しなさいということですよ〜!バヤラーが言ってあげます!」
あっという間にメガネを取り上げられ、裸眼視力0.1以下の私は右往左往するしかない。片眼ずつ塞いで検査表を見てみたりしていると、お姉さんに「頭でも痛いのか」と心配されてしまった。遊牧民出身のお姉さんにメガネが必要だったことはない。
その間バヤラーちゃんは店の奥で、「ちょっとコレは直せない」というメガネ屋にそこを何とかとネジ込んでくれている。
出てきた。
直った?
「はい行きますよ〜!2階のдархан(ダルハン:鍛冶屋)で、ねじ穴を開けてもらってきなさいだって!」
鍛冶屋!?
予想外の答えにおののく。しかしもう流れに身を任せるしかない!
咥えタバコの鍛冶屋のおっちゃんは無表情でつるを受け取った。じっくり観察し、合うサイズのドリルを取り出す。明らかに一番細いやつだ。
タバコを消す。釘でコンとやり、
当たりをつける。そしておもむろにドリルを当てた。
ひょえぇぇえ!
バヤラーちゃんの「これは完全に直るかまったくだめかのどっちかですね〜アハハ」という言葉に頷くしかない。これが一か八かか。
「ちょっと硬いなこれは」と言うおっちゃんを、そこを何とか頑張ってくれと励ます。メガネの修理とはこんなに手に汗握るものだっただろうか。
かくして穴は開いた。チンギス・ハンの軍隊を支えた鍛冶技術。このおっちゃんのなかに、800年の伝統が脈々とあると思うと神々しい。
支払いは3000トゥグルグ。135円である。
「すごかったですね〜まゆこさん!じゃあ下に行きましょう!」
ねじを穴に入れてみせるバヤラーちゃんもテンションが高い。
下での作業はすぐに終わった。
「できましたよぉ〜!」
本体とつるをねじで止めただけ、端の始末などはない。
しかし充分である。ぶらぶらしない。固定されている。そう思った瞬間に、体全体に広がった安堵感!
「ぜんぜん大丈夫じゃなーい?よかったですね〜!」
会計は1000トゥグルグ、45円。合計180円。
視覚と精神の安定を取り戻すにはあまりにも刺激的でリーズナブル、また教訓に満ちた、モンゴルでのメガネ修理であった。