4CYCLE

和歌山日記:RPG的栗拾い

栗拾いに誘ってもらった。

よく行く田辺の喫茶店「喫茶順」の奥さん・さつきさんの実家で採るという。栗林があるそうだ。

実家は田辺市の山側、龍神。弘法大師が開いたとされる「龍神温泉」を擁する山深い地域だ。

午後イチに順に集合する。さつきさんの娘さんのまなみちゃん、紀伊田辺駅前で営業するBar Octのマスターも一緒だ。この人はバーテンダーとしての腕は確かだが、とにかくよくしゃべる。車中でもトークショーで、要約すると、拾った栗はマロングラッセにするらしい。私は何を作ろうか。

車は龍神の山中をいく。細かなヘアピンカーブが続き、あまり車に強くない私は思わず目をつむる。マスターは話し続ける。

そうこうしていると栗林。崖にあり、下には川が流れている。

「今年は少ないてよー」

さつきさんが言う。

「ほんまや、全然ないなあ。まだ青いの多いしな」

とまなみちゃんが返す。私の眼には実りまくっているように見えるのだが、基準が違う。

地面に落ちている実を拾ったあとは、木を叩いて落とすという流れである。まなみちゃんとマスターが、適当な枝を探しに行く。頼もしい。

そこからはチームプレーだ。一人が枝を引っ張って叩きやすくし、一人が叩き、もう一人が落ちた栗を追いかける。息が合わないと栗は採れない。

この状態は何かに似ている。RPGだ。これはただの栗拾いではなく、仲間との栗クエストなのだ。

そうこうしていると、叩く用の枝が折れてしまった。ありゃーと言っていると、同じ龍神在住の母親(おばあさん)を迎えに行ったさつきさんが戻ってきた。

おばあさんは話を聞くと、即行動に出た。

「物干し竿持って来たるわ。待っときや」

と言うや、栗林の近所の親戚の家に行き、3mはあろうかという長大な物干し竿を一人で運んできたのである。80過ぎてなお、山人の身体能力は都会の若者を完全に凌駕している。これが彼らの日常なのだ。尊敬しかない。

魔術師登場のおかげで、そこからのクエストは速かった。体格の良いマスターが竿を振り回し、栗を崖の下に落とす。他の人達は下の川辺で待ち、川に落ちた栗を拾う。まだ9月なのに、川の水はすでにとても冷たい。山の秋は短い。

日が傾いてきたところで引き上げた。栗クエスト、第一ステージはクリアだ。大きいバケツ2杯分の栗を山分けする。私も調理したことのない量をいただいてしまった。第二ステージ、一人暮らしの調理器具でどうしたら効率良く保存処理できるか。まずは一晩、水に漬けるところからだ。

岡本

読みもの

ホームへホームへ