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ああモンゴル:モンゴル研究と内陸アジア史学会(下)

ソウル大学の教授による「近年におけるモンゴル帝国研究の潮流と新しい視点」である。1986年から現在までの30年間で、モンゴル史研究がどのように発達してきたかという内容だ。

私は大学などでモンゴル史を勉強したわけではないので、先行研究に関する知識が欠けている。この講演はそれを補ってくれるだろうと非常に楽しみだったのだ。

英語で行われた講演は最初から最後まで大変刺激的で、リファレンスに溢れていた。

モンゴル史研究の大変さのひとつは、帝国時代の領土のあまりの広さゆえに、研究に使われうる史料も非常に多言語になるという点だ。

基礎史料は、13世紀半ばに編纂と考えられている中国語の『元朝秘史』、そして14世紀編纂のペルシャ語による『集史』。研究対象の地域によって、このどちらかがまずベースとなる。

その上で、
モンゴル語(現代はもちろんのこと古代)
チベット語(宗教関連は必須)
ロシア語(ソ連時代以降、ロシアでは隣国のモンゴル研究が盛ん。現在でもモンゴルからの留学生が多い)
ドイツ語(日本、ロシアとともに世界3大モンゴル研究拠点をなす。特に考古学が盛ん)
英語
イタリア語(マルコ・ポーロをお忘れなく)
フランス語(モンゴル帝国を旅したフランス人僧侶がいた)
ウイグル語
タングート語
シリア語
アルメニア語

などなど、日本語含め史料言語の数は18に上る。書いていて目眩がするが、歴史研究で使用する言語は、話せなくとも最低限読めれば良い。それゆえ、私の周りの研究者達だけみても、6言語ぐらいなら読む人はザラにいる。本当に歴史研究とは気の長いものである。

この現状をふまえた上で教授は、モンゴル帝国研究において今後、このような多方面からの視点とモンゴル国内からの視点の2つを連結させる作業が必要になってくると述べた。それこそが地域や時代で分断されない、包括的な「モンゴル帝国研究」である。

これによってもたらされる新しい知見はさまざまだが、より客観性の高い時代区分の導入などがすでに議論されているようだ。

私がモンゴル史に興味を持った最大の理由は、その範囲の広さと影響力であった。ユーラシア大陸の国々や地域は、ほぼ何らかの形でモンゴルの影響を受けている。そのような意味で、モンゴルの歴史とは世界史に近いものであるように思う。

そう考えると、ユーラシア大陸出身の人で、モンゴルに関係しない人などおよそいないということになる。自分を知るようにモンゴルを知ってもらえたらというのが、私がモンゴルについて人に話をする時に願うことである。

大変勉強になった講義であった。

岡本

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