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和歌山日記:海がなくなる

知り合いの料理人さんが田辺の食材を見学に来たので、江川漁港に案内した。

以下は同行者が聞いた話だ。

漁港で競りを待つ人々のなかに、江川で生まれ育ち、30年間漁師をしてきたおじさんがいた。同行者は彼にこう聞いた。

「30年前と今とで、獲れる魚って変わりました?」

おじさんは言った。

「そうやなあ。種類も変わったけど…そもそも、獲れなくなってきたな」

獲れなくなってきた?

「海がなくなってきたんや」

どういうことですか?

「埋め立てとか…潮の流れも変わってきてしもたしな」
「昔はヒロメ(紀南特産の海藻)は溢れるほど獲れたし、種類も多かったんやけどよ。今は全然やでよ」

海がなくなってきた。なんとストレートな表現。生まれた時から江川の海と向き合ってした人からしか出てき得ない言葉だ。ただの比喩ではない、おじさんの50年の実感。

もしかしたら私達が想像する以上に、事態は深刻なのかもしれない。そう、同行者はぽつりと言った。

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