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いつかの日記:本は体を表す

福岡の小さな町に住んでいたことがある。まちづくりの中心人物のひとりである酒屋のご主人は本の好きな方で、店に本を置いたり、本の会を催したりしていた。

ある時、この会に誘っていただいた。読書好きの人達が「最近面白かった本」を持って集まり、紹介し合ったり、それをきっかけにして何にでも話を展開していくという会だという。

当時の職場に本の話ができる人がおらず寂しく感じていた私はとても嬉しく、参加させていただくことにした。

持っていく本は何冊でも良いという。選ぶ作業も楽しい。

場所は酒屋さんの一角で、大きな一枚板のテーブルがある。
コーヒー好きな人が多く、野点ならぬ野コーヒーのように、毎回一式持参してきていた人もいた。
もちろん、酒屋さんなので時にはそちらの栓も開けられる。

参加者は、木工作家、映画監督、絵本屋さんや新聞記者さんなど。まったく異なるジャンルの人達なので、どんな本を持ってくるかお互い想像もつかない。

初めて聞く出版社、どこから探してきたんやというような本、よく見つけたなというような古書や写真集。ベストセラーから奇書までさまざまな本が次々と紹介される。話は尽きない。一冊の紹介の「参考図書」と称し、延々とあれこれの本が紐付けられてゆく。

酒屋さんの営業が終了する20時から三々五々集まってきて、解散はいつも日付が変わってから。名残惜しく、未練がましく翌日、仕事のあとに酒屋さんに寄ってみたりする。

仕事から離れて、純粋に好きなものについて人と話ができる唯一の場。当時の自分にとっては、救いのような場所だった。

私がその町を離れてからも、本の会は続けられている。先日、酒屋さんから連絡があった。町の図書館で、本の会のおすすめ本が紹介されることになった。ついては、コメントとともに何冊か推薦してもらえないか。

他の方たちのおすすめ本リストも一緒に送られてきた。
この本は秋頃に木工作家のSさんがものすごく読み込んでいた本だなあ。
これは絶対、絵本屋Hさんのおすすめ。
これは酒屋のKさんが熱く語っていたやつだ。

だれがどれを選んだのかすぐにわかる。
著者でもないのに – あるいはないからこそ – 人柄が選び方に出る。
不思議なものだ。
読んだことがない本でもタイトルを見たら、この人のセレクトかなぁと検討がつく。

とてもうれしかった。
リストを見ながらバランスを考え、3冊選んだ。
今、推薦文を書いている。

『家守綺譚』梨木香歩(新潮文庫)
『チンギス・ハンの墓はどこだ?』白石典之(くもん出版)
『妄想ニホン料理』NHK「妄想ニホン料理」制作班(KADOKAWA)

岡本

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