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世界より:チャイ売りのおじさん

経由地のインド・チェンナイで、宿の斜め向かいにチャイ屋さんがあった。おじいさんに近いような年齢の男性と、10代後半ぐらいの青年がやっている。

チャイを淹れるのはおじさん。片目が白内障のようだが、見事な手際で淹れている。青年は、注文を取ったり、横でクッキーを売ったりしている。

最初にここに行ったのは、飛行機のチケットを印刷したくて入った近所のネットカフェで、お釣りがないからここで紙幣を崩してもらってこいと言われたため。

ひっきりなしに客が入っている店で、何か買うわけでもないのに面倒を頼んでもいいのだろうか。

こわごわ行って頼んでみると、作業中のおじさんが無言でこちらを一瞥し、待てと静止するような手つきをした。しばらく待っていると、チャイを淹れ終わったおじさんはまた無言で私の手から紙幣を取り、ささっと細かいのを数えて渡してくれた。ありがとうという言葉にも無表情のまま、無言で頷いただけだった。

夕食後、この店に入った。チャイを注文する。小さめサイズ、一杯10ルピー(19円)。青年がクッキーをすすめてくる。1枚2ルピー(4円)。美味しそうだが、細かいコインを持っていない。そのように断ると、チャイを淹れ終わったおじさんが無言でクッキー棚に行き、2枚を瓶から抜き取って、新聞紙に乗せて渡してくれた。

びっくりしておじさんを見ると、食べろと手を差し出す仕草をし、お金はいいと首を振っている。手を合わせて感謝し、ありがたくいただいた。

クッキーをお供にチャイを飲み、包んでいた新聞紙を眺める。選挙の記事だろうか、人の顔写真とプロフィールのようなものがたくさん載っている。

突然、おじさんが新聞を差して「マラヤーラム」と言った。おじさんの顔を見ると、今度は「ケララ」と言った。

この新聞は、チェンナイを含むタミル・ナードゥ州で一般的なタミル語ではなく、隣のケララ州で話されているマラヤーラム語で書かれているのだ。おじさんはケララ出身なのだ。

「ケララ出身なのですね!」と言うと頷いて、初めて少し微笑んでくれた。南インド最大の都市・チェンナイの中心部で、チャイ屋を繁盛させているおじさん。ケララから一人出てきて、店を構えるまでになったのだろうか。マラヤーラム語の新聞を読んで故郷を思い出しつつ、都会で稼いでいる。おじさんはたまには帰省したりするのだろうか。ケララは海に面した、緑溢れる、美しい土地である。

岡本

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