M君は大学の後輩である。現在は関西の大学の院生で、文化人類学を専攻している。
私が青年海外協力隊員としてモンゴルに赴任した時、いちはやく訪ねてきてくれたのがM君だった。交換留学先のフィンランドに向かっている途中に寄ってくれたのだ。1週間ほど草原で過ごし、ウランバートルからシベリア鉄道に乗って北欧へ旅立っていった。
あれから4年近く経ち、今M君はエチオピアの、移動しながら暮らす職人について修士論文を書いている。遊牧民の職人バージョンである。
エチオピアで数ヶ月フィールドワークをして帰国したM君を、ある日大阪のモンゴル料理屋に誘った。
– なんでエチオピアをフィールドにしたの?
「『移動する職人』に興味があったんです。定住ではない生き方を考えたくて」
「それで先行研究を調べたんですけど、あんまりなくて。ベトナムとペルーと、あとエチオピアぐらいだったんです」
– 散ってるね、不思議。
「指導教授のフィールドがエチオピアだったので、まずはそこをと思って」
– 具体的にはどういう職人さんを調べたの?
「鍛冶屋さんです。今はもう移動してないけど、昔やってたとか、代々やってたっていう人達に話を聞いたり」
現役で移動している職人は、残念ながらもうほぼいないらしい。
– その鍛冶屋さん達って、移動しながらどんなものを作るの?
「それこそ何でもですよ。オーダーを受けて作る感じなので、草刈り鎌から包丁まで何でも」
– そういえばIさん(共通の知人)が、M君に見たことのない形の草刈り鎌を見せてもらったって言ってたよ。
「そうですねー、やっぱり刈るものが違うと形も変わりますよね」
「あ、忘れないうちにこれ、お土産です」
そう言って出してくれたもの。
– これは?
「コロっていう、エチオピアのスナック菓子です。コーヒーとか飲む時のつまみ的な。大麦とピーナッツを炒って、塩と唐辛子と、調味料で味付けしたものです」
– 調味料?
「いろいろ入ってるんですが、人や家によって、それぞれ調合が違うんですよ。秘伝ですね」
– へぇえ〜!こんな貴重なものをもらってもいいの?
「もちろん」
– ありがとう!
その場でさっそくいただく。聞いただけでおいしそうで、見るからに止まらない系のコロ。実際はどうだろう?
– うまーーー!!!
– なにこれめっちゃおいしい!!!
「良かったです〜」
– こんなシンプルなのに。ほんとおいしい。
「やっぱみんなちょっとずつ味が違うので、自分が気に入ったのを大量買いしてきたんです」
– そうなんや。良い舌を持ってるね(笑)
研究対象としては、エチオピアは修士論文をもっていったんおしまいというM君。でも、コロをかじりながら研究した鍛冶職人の話、私はまだまだ聞きたい。